部落史に学ぼうとする人たちの必読文献です。部落史については、いまだ教科書にも、貧困・低位性論と悲惨史観が幅をきかせています。そのような見方がいまよりもさらに大勢を占めていた時代から、下之庄歴史研究会は、部落史観の転換を提唱してきました。地元の資料発掘から始まって、それまでの部落史を批判して新たな見方を提示し、その活動はすでに四半世紀を過ぎています。本書は、設立30周年を迎えた自主的民間研究団体が開催したシンポジウムの記録です。奈良県における下之庄歴史研究会の<持続する志>を賞賛したいと思います。
内容は、下之庄歴史研究会の代表である上野茂さんの報告「部落史認識の再構築に向けて」から始まり、西日本からは九州・福岡県人権研究所の竹森健二郎さんの「部落史観は転換したか」、東日本からは長野の信州農村開発史研究所の斎藤洋一さんの「信濃国の近世部落史研究の成果と課題」と、それぞれの地域に根ざした貴重な報告が収録されています。
上野さんの報告は、『雑学』に連載された「異能者論」の集大成です。竹森さんも最初は「全国各地でこのようなことが行われていたと言いたいわけではありません」と言いながら、斎藤さんに挑発されて「このようなことが全国で行われていたのです」と変化します。この辺の詳しい内容は、ぜひとも本書を紐解かれたいと思います。非常におもしろいシンポジウムの実況中継が味わえることを保障します。
B5判 77ページ
頒価 700円