金泰九著『在日朝鮮人ハンセン病回復者として生きる わが八十歳に乾杯』

今年の年3月のある晩、寝付かれぬまま思いに耽っていて、ふと、「何かを書いてみよう」という思いに駆られると、妙なことに「題」まで頭に浮かぶのでした。
「わが八十歳に乾杯」と。
これまでにも、知人から、書くことを勧められたこともありましたが、「恥をかくようで」と言っては逃げていました。ところが八十歳になって初めてその気になったのだから、八十歳は私にとっては、ある意味での限界を感じさせる年齢であったのかもしれません。
十二歳のおり、日本に来て、もう早や在日生活六十九年が過ぎました。六十九年の内、長島愛生園生活五十余年、人生の大半を療養所で過ごしました。療養所の中の生活は、いわば、国から与えられた生活であるだけに、競争社会の厳しい生活苦の経験は、あまりありません。
競争社会で生ずる「他人を蹴落としてでも…」という厳しさがない分「お人よし」なのか、とも思います。文章にも随所にそのような社会性の足りなさが散見されると思いますが、杞憂であれば幸いです。
しかし、そんな拙い文章ですが、二十世紀から二十一世紀への激動の時代を、この日本という国において、在日朝鮮人ハンセン病回復者として生きた一人の人間の生きざまをお読みいただければ、このうえない幸せに思います。

「はじめに」より抜粋

B6判 334ページ
頒価 1680円



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