2023年5月6日
全国在日外国人教育研究協議会
会長 舟知 敦
外国籍の少年の人権を守るため、入管法の改正案の撤回を求める声明
私たち全国在日外国人教育研究協議会は、日本に住む外国につながる児童・生徒の教育が保障され、彼(彼女)らが周囲と共に健やかに成長できる学校・社会を目ざし、日本社会の排外と差別、同化と抑圧を克服する教育実践を創造し、 多文化共生の教育を確立することを目的として実践交流などの活動をしています。
政府は「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」を国会に提出し、本年4月28日に衆議院法務委員会で可決し、連休明けに衆議院本会議で審議する予定です。
本法案は、多くの市民や支援者、教職員らの反対により廃案となった「2021年入管法改定案」とほぼ同内容です。私たちは、「2021年入管法改定案」と同時に国会で審議されていた少年法「改正案」に対し、外国籍の「非行」少年への影響について意見書を提出し反対しました(2021年5月18日付け「少年法等の一部を改正する法律案(政府提出)に対する抗議声明」)。少年法は「改正」されてしまいましたが、改めて「改正」少年法の成立に抗議するとともに、本法案について外国籍の子どもたちの教育に関わる立場から下記のとおり反対します。
「改正」少年法は18歳・19歳の少年に少年法を適用するとしながらも、刑事裁判の対象となる事件の範囲を拡大し、推知報道(少年の名前、住居、家庭、学校名などがわかるような報道)を解禁し、資格制限(前科があると特定の職業に就いたり、就労に必要な資格を取得できないことがあるが、少年の場合はそのような制限を受けない)など更生を担保するため の規定を除外し、刑罰化と厳罰化をすすめるものです。特に推知報道の解禁が教育現場に及ぼす影響は非常に大きいものがあります。
「非行」や「荒れ」の背景には、貧困、虐待、差別など、少年たちの周囲にある社会の側に問題がある中で、その問題を棚上げにして、少年の更正(やり直し)の機会を奪うもので、家庭裁判所調査官はじめ少年の矯正に関わる専門家も反対してきました。とりわけ家庭裁判所における少年審判ではなく、大人と同じ公開の法廷で行われる刑事裁判の対象となる事件の範囲が「短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪の事件」に拡大したことは外国籍少年にとって深刻です。外国籍の少年が刑事裁判の対象となり、もし1年を超える懲役・禁錮の有罪判決を受けた場合、それは退去強制の事由となります。もっとも、退去強制事由に該当した場合でも、在留特別許可が認められることがあります。しかし、本法案では、「無期若しくは1年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者」は原則として在留特別許可をしないという内容になっています(本法案50条1項柱書)。
この法案が成立すれば、在留特別許可の対象者が狭められ、外国籍少年は日本から生活基盤を奪われ、学校や職場から引き離され、国籍のある国に送られてしまう可能性が高まります。特に日本生まれや日本での生活が長い少年の場合、言葉や社会習慣に慣れないだけでなく、住んだこともない「出身国」 に送られてしまうことにもなりかねません。また家族と長く一緒に日本で生活している少年の場合、国籍のある国には家族や頼れる場所がない場合があり、日本の国籍を持たないというそれだけの理由で、日本人の少年とは異なる深刻な事態を招くことが懸念されます。しかも家族と一緒に暮らす家族一体の権利が奪われてしまうことにもつながります。
わたしたち全国在日外国人教育研究協議会は、多くの外国籍の少年が貧困や差別、いじめなどさまざまな困難のなかで、生きてきた姿を目の当たりにしてきました。さまざまな事情で「非行」や法に触れてしまう少年たちの置かれた状況は、受入れる社会の側にも問題があると指摘されています。彼ら(彼女ら)にも日本人 の少年と同じように更正と再出発の機会が与えられるべきです。
外国籍であるという理由で、少年たちが日本で生活し、学習する機会を根こそぎ奪われてしまうことがないことを願います。これまでも戦前、戦後の歴史の経緯のなかで中国等から来た少年たち(中国等帰国生徒)が、日本社会から温かく受け入れてもらうことができず、社会や学校から疎外され、厳しい環境に立たされたことを忘れてはなりません。
政府は、すべての子どもの人権を尊重するために、「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」を撤回されることを要望いたします。